コロナ 居室換気は大丈夫か?
- 2020.07.23
- 空調設備

どーも
換気の重要性を再認識した私です。
「新型コロナウイルス」と言われ始めて、だいぶ時間が経ちました。
換気(排気)に対する皆の意識が、今までより格段高まったと思います。
ビルメンテナンス業務に携わっている関係上、常駐ビルのテナントさんから換気に関する問い合わせが増えるのではないか?
と、予想していたのですが、これまで特にありませんでした。
営業の自粛やテレワークにより、そもそも会社に出社してなかったのが要因かもしれません。
しかし先日、ここにきてついに、テナントさんから問い合わせがありました。
なので今回は、オフィスビル居室の換気に関する私の回答を紹介したいと思います。
問い合わせのあったテナントと経緯
換気について問い合わせのあったテナントさんの説明からします。
そのテナントさんは、よくある地域の文化センターのような用途で居室を利用しています。そのフロアの約⅖を占める面積で、いくつか教室があります。
それぞれの教室で日々、習い事が開催されています。
習い事の内容は、歴史の講座だったり絵画教室だったり英会話だったり、いろいろです。
今回の換気に関する問い合わせは、テナントさん自身からではなく、習い事を主催している講師の方からだそうです。
講師 → テナント → ビル設備員
という経緯での問い合わせです。
当、居室の空調(換気)システム
問い合わせをした講師の方が利用している居室(教室)の空調環境がこちらです。

・外調機から給気(SA)を吹き出すアネモが8か所

・外調機へ居室の空気を還気(RA)するガラリが4か所

・同じく外調機へ居室の空気を還気(RA)する扉のガラリが1か所

(共用通路に外調機の還気の大きなガラリがあります)
・PAC(パッケージ)エアコン3台

このような空調システムとなってます。
この中で居室の換気を担っているのは「外調機からのアネモとガラリ」です。
外調機は「外気(OA)の新鮮な空気をアネモで居室へ送り、居室の汚れた空気をガラリで吸って屋外へ排出(EA)」しています。
(外調機は他にも機能を備えています。が、ここでは説明を控えます)
「PACエアコン」は室内の空気を取り込み熱交換(冷やすor温める)して室内へ供給してます。つまり、役割としては室温の調整ですので、換気の機能はありません。
※上記のシステムは私の現場に限ったことです。空調(換気)のシステムは、それぞれのビルによって違いがあります。
換気の判断と根拠
では、この居室の換気能力を調査します。
調査する項目は
・必要換気量(㎥/h)
・測定風量(㎥/h)
この2つです。
「必要換気量」とは、その居室が最低限必要とする換気量の事です。
その居室はこの換気量を下まわってはいけません。というアンダーラインです。
「測定風量」とは、実際の居室の給気もしくは排気の量です。
この値が必要換気量を上まわる必要があります。
上記2つの値を調べれば、その居室の換気能力が分かります。
それぞれの項目(必要換気量・測定風量)には、計算式があります。
ネットで検索すれば直ぐに出てきますので、知りたい方は各自でお願いします。
計算式に当てはめる床面積や風速などの調査が必要ですが、有り難いことに既にデータがあります。
外調機を新しく更新した時に、空調業者の方で、ビル全ての居室のデータを出していました。
なので、必要換気量は空調業者のデータをそのまま使えます。
測定風量に関しても、業者のデータ通りの風速が出ているかの確認作業のみになります。
その値がこちらです。
・必要換気量 484(㎥/h)
・測定風量 532(㎥/h)
測定風量が必要換気量を上まわってますので、この居室の換気は十分満たされています。
ちなみにこの居室の「換気回数」も出してみます。
換気回数とは「その居室の空気が1時間に何回入れ替わるか」です。
「測定風量」を「居室の容積」で割ります。(この居室の容積は現地調査により236㎥でした)
532㎥/h÷236㎥=2.25/h
つまり、この居室は1時間に約2回、室内の空気の入れ替えができていることが分かります。
これらの根拠となる「値」をしっかり出すことは、テナント側に説明するうえで、説得力が増します。
具体的な居室の使用用途
ここまで調査していざ、テナントの方に結果を報告していたときです。
話の流れで、テナントの方からその講師の方がされている講義内容を知りました。
私はてっきり、歴史や絵画の様な講義がその居室で行われていると思っていたのですが、その方は「吹き矢」の講師だそうです。
「吹き矢」って、、、。(個人的にどんな講義が行われているのか興味あり)
多い時で受講者は10人程だそうです。
私の結論
今回の問い合わせである「居室の換気は大丈夫か?」
に対する私の回答は、「建築基準法」上は大丈夫です。
当、居室の換気能力は建築基準を十分クリアしています。
が、コロナウイルス上の観点では、大丈夫とは言いきれません。
居室の換気能力に対して「コロナウイルス基準」というものは存在しません。
各々がマスクを着用し、ソーシャルディスタンスを確保した上で、居室を使用している状況です。
そして今回は、対象が「吹き矢」です。
マスクを外して思いっきり息を吐きますよね?
これは、「約236㎥の空間で最大10人が思いっきり息を吐く」居室の換気は大丈夫か?
という問いです。
私個人の見解は、大丈夫じゃないと思います。
これはもう、居室の換気能力の問題ではなく、使用用途の問題です。
設備として、できることはあるか?
「居室の責任じゃない」というのが私の回答ですが、それでも仮に何とかして欲しいとなった場合、設備としてどの様な対策ができるか考えてみます。
最初は外調機の換気系統のダクトVDの調整で対象の居室をより多く吸う(排気風量を増やす)という策を考えました。
が、この方法は極端な言い方をすれば「他を殺して、我を生かす」です。
外調機、換気ファンの能力は機器の載せ替え(グレードアップ)をしない限り上げることは不可能です。
決められた能力を各居室に分配しています。
換気ファン能力が「6」だとすると
A居室に「2」
B居室に「2」
C居室に「2」
のような感じです。(バランスがいい)
これをA教室の換気能力を上げようとすると
A居室に「4」
B居室に「1」
C居室に「1」
となってしまいます。(BとC居室が犠牲になる)
これは外調機の給気でも同じです。
つまりこの方法は適切ではありません。
今ある設備のみで、吹き矢に対する換気能力を上げるのは正直厳しいです。
設置費用が発生してしまいますが、喫煙所のように別個で排気設備を新設するのが1番効果的だと思います。
この場合の新設費用はテナント負担です。もし仮に設置するとしたら、工事費はかなりの額になるでしょう。
更に、設置したことで居室の排気量が多くなった分、空調負荷も多くなります。
居室の空気をPACエアコンで冷やしても、すぐにその空気は排気されてしまいます。排気の強い居室を冷やすのは、多くのエネルギーを消費します。
これにより空調料金も上がるでしょう。
費用をかけていいのであれば、設備的にできることはありますが、おそらくテナントさんにとって現実的ではありません。
最後に
コロナウイルスは過去に経験のない出来事です。
至る所に明確な基準はありません。
(このまま長引けば基準ができるのかもしれません)
私たち設備員は、今ある設備がしっかりと機能する(能力を維持する)ように日々、注意してメンテナンスすることが責務なのだと、今回の事で再認識させられました。
吹き矢の講師の方のためにも、早く正常に戻ってくれる事を皆さんと同じく願います。
では、お疲れ様でした。
長い記事にお付き合い頂きありがとうございますm(_ _)m
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